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アイマスク体験

”人の役に立つ”学習を
階段昇降や給食も目隠しのまま
不自由な方の立場になって

山中雅史・仮名

2000年6月28日(水)産経新聞静岡版”学びと教えの現場から”掲載

アイマスク体験

 時代は激しく動いている。
 学校教育も。ここ一,二年のことだが「自分のため」の学習から「人の役に立つ」学習が取り上げられるようになった。
 例えば,「車椅子に乗ってみる」「身体が不自由な方と交流する」「実際に点字を打ってみる」「手話で流行歌を歌う」「介助体験をする」「老 人ホームを訪問する」…といった授業が各学校で次第に行われるようになったのだ。

■どんな反応を?■

 私は,5年生の子供たちとアイマスク体験の授業を行った。アイマスクをして目が見えない状態で歩行したり,正しい介助の仕方を学んだりする のである。
最初に体育館でアイマスクをして二十メートルほどの直線コースを歩かせることにした。目の不自由な人の立場に立たせてみるのである。途中に は三角のカラーコーンやマット,踏切板が置いてある。これは障害物だ。
 まず,代表のA君にやらせてみた。果たしてここでどんな事態が想定されるであろうか?
 カラーコーンにぶつかる。マットや踏切板につまずく。いや,方向さえままならず壁にぶつかるかもしれない。怖くて座り込んでしまう場合もあ ろう。
 実際,その子はカラーコーンにぶつかって,そこで止まってしまった。

 ではそうなってしまった時,それを見ているクラス集団はどんな反応を示すだろうか。「大丈夫?」と声を掛けるのだろうか。
いや,ぶつかる前に「危ない」と叫ぶかもしれない。
 私のクラスでは…。多くの子が笑ったのである。これは見過ごしにできない。
「今,笑った人は,その場に立ちなさい。」
 子供たちの中に緊張感が走る。穏やかに,しかしキッパリと告げる。
「あなたたちは笑いましたね。誰を笑ったことになると思いますか。アイマスクのA君ですか。」
 しばしの間(ま)。張りつめた空気。私は続ける。
「違うのです。あなたちは目が不自由な人を笑ったことになるのですよ。目が不自由な人が何かにぶつかって困っているときに,あなたたちは笑う のですね。とても残念です…」
 はっとした子供たちの顔,顔,顔。
「今からすることは少しでも目の不自由な方の気持ちを知り,その立場に立つ学習なのです。これからは真剣に取り組むのですよ。ハイッ,座りな さい。」
 体育館はしいんとしている。私は言う。
「笑わなかった人,立ちなさい」
 四人がさっと立った。
「すばらしい。いい顔をしている。輝いている。心も光っているね。」

■やさしくしたい■

 この後,体育館の中のコースを子供たちは,真剣に歩いた。ペアになって,正しい介助方法で校舎内を歩いた。階段の上り下りもやってみた。給 食はアイマスクをして食べてみた。子供たちの感想はー。
『怖くて怖くて,アイマスクをとりたい気持ちだった。目が見えない人はこんな恐怖をもっていることが分かった。目の見えない人に会ったら,や さしくしてあげたいなと思いました。』
『Oさんが介助してくれたけど,特に階段が怖かった。Oさんは「階段があるよ」と言ってくれた。途中つまずきそうになってしまった。そんな時 「大丈夫」と声を掛けてくれた。とてもうれしかった』

 今の子供たちは,このような教育を小さいころから受けていくことになる。私が子供のころと大違いだ。 これまで私なんて町中で白い杖(つ え)をついた人と会っても,車椅子に乗っている人を見かけても,なかなか声が掛けられなかった。「何かできることはありませんか」という, たった一つの大切な言葉を。
 ”人の役に立つこと”を学び体験するこれからの子供たちはそうではない。
 時代は変わる。
(山中雅史・仮名)

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